最近は夜になるとあたりに甘いにおいがたちこめて、まるで楽園にいるような気がするのです。そんな夜に道を歩いて、建物がうちこわされただだっ広い空き地に突き当たると、なんだかたまらず泣きそうになるのです。
疲れ切ったコンクリートと材木のうらぶれた死骸を眺めて、ここにかつてあった人間の営みが、今はなくなってしまった。そこに何も知らない甘いにおいが漂ってくると、溶けてなくなるほど切なくなるのです。
令和の時代に、戦後のどさくさと、場末のごみ溜めと、今はどこにいるのかもわからないヒッピーの寝息が、そこにあるのです。