草原にいる

雑文を書きます。

毒を飲む

 頭痛の中に甘美な瞬間がある。

 換気扇も切った静かな雨の夜に、横に臥してぼんやりと仄暗い部屋を眺める。

 血管の脈動に合わせて、黒い波のような痛みが心を暗くする。口腔が溶け出して何やら熱いものが息から漏れる。この熱いものは痛みそのものだ。熱い息を、丁寧に口から吐く。吐けば吐くほど痛みがなくなっていくと願掛けをして。視界がぼんやりとしてくると、何やら白い影が視界を横切る。ずんぐりとした白い蛾が、はたはたと飛んでいる。気付けば10匹かそこらが部屋の中を舞っている。甘い匂いのする鱗粉を振り撒きながら、眠気を誘ってくる。

 その甘い匂いにつられて冷蔵庫を開けると、中にはシュークリームが隙間のないくらい詰まっている。柔らかな衣が半分つぶれているが、お構いなしに頬張る。なんと優しい、上品な甘さだろう。

 そこで目が覚める。見れば一匹の蛾が部屋の中に入り込んでいた。頭痛の夜は、どこからが現実でどこからが夢の中なのかよく分からなくなる。重苦しい気持ちの中に、どこか毒々しい甘美な手触りがある。

 頭痛薬を飲む。段々と弱まる痛みに、意識がはっきりとしてくる。現実に戻っていく。体は軽くなったのに、かえって気分が白けてしまった。体の中が漂白剤で侵されていく。いけない、毒を飲んでしまった!