草原にいる

雑文を書きます。

線香花火

 線香花火を買って、一日の終わりにベランダで一本だけ火をつける。

 夏だからとか、この線香花火が終わったら秋が来るとか、なるべく変な意味づけをしないように、そっと、ありのままの時間を感じるようにゆっくりと火をつける。

 火が付いた一瞬だけ、乱暴な硝煙がボソボソと音を立てる。それが過ぎれば、光と闇。純粋な燃焼。制御された燃焼。この花火は、私の為だけに燃えている。私の一瞬の娯楽のために燃えて、消えていく命。肺の奥が、ただれたような疲れたような罪悪感でなんだかイライラしてしまう。

 一日中部屋の中にいた休日は、夜の外のにおいと火薬のにおいの刺激が強くてむせかえる。このにおいには、疲労感がよく似合う。しかし私はお風呂に入ったばかりで妙にさっぱりしてしまっている。花火のにおい。火薬のにおい。外のにおい。これは男のにおいで、一日中部屋にいた私は女のにおいを身にまとっている。鬱屈のにおい、清潔のにおい、待つにおい。女になりたい。

 火花にふっと触れてみる。自分の指に吸い付くような、避けていくような、触れているのか分からないくらい軽い火花。熱くもない。見えているのに触れない幻のような火花。あなたに生きている意味はあるの。